グレイテスト・ショーマン

productionnote

フィニアス・テイラー・バーナムと聞いてすぐ頭に浮かぶのは、長年彼の名前が使われた<リングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・サーカス>の豪華なショーのことだろう。芝居や音楽が上流階級の人たちだけのものとみなされていた時代に、大衆的な方法で一般市民に娯楽をもたらしたバーナムは、スティーブ・ジョブズのように社会生活に革新をもたらしたプロデューサーであり、起業家の先駆者だった。
プロデューサーのローレンス・マークと共同脚本家のビル・コンドンが、そんなバーナムについて思い出したのは、2009年、ヒュー・ジャックマンが司会をつとめるアカデミー賞授賞式の番組に一緒に取り組んでいる時だった。ジャックマンが番組作りに情熱を注ぐ姿を見て、マークはこう考えた。「“この人は地上最高のショーマンだ”と思った時、P.T.バーナムのことが頭に浮かんだ。それで、彼にバーナムについてのミュージカルを作るべきだと提案した結果、彼は大いにやる気になってくれた」
その時点ではリスクが高いと考えられていたアイデアが現実的になるまでには、7年の月日がかかった。ジェニー・ビックの脚本を現代向けのミュージカルとして構成していく過程で、ジャックマンは、『シカゴ』と『ドリームガールズ』の映画化を手がけたビル・コンドンや、コマーシャルとミュージック・ビデオの監督として躍進中のマイケル・グレイシーらをチームに誘った。
グレイシーは、人生からできるだけ多くの心躍ることを絞りだそうとするバーナムの強い気持ちに心の底から共感した。グレイシーは語る。「バーナムの物語では、自分の想像力を制限しないこと、新しい世界を作り出すために頭にあるものを使うことが描かれている」
グレイシーのアプローチにとって、バーナムのショーでスターになるパフォーマーたちの存在もきわめて重大だった。バーナムのおかげで、賞賛を浴び自信を持つチャンスを手に入れるパフォーマーたちは、人が「普通」という言葉の定義をどれほど狭めているかについて考えさせる役割を果たす。「P.T.バーナムは、社会から認められていない人たちにスポットを当て、彼らが初めて愛を感じるチャンスを提供した。そして、彼らは特別なのだと伝えた。観客は彼らを気に入ると思う。なぜなら、結局、誰もが彼らと同じだからだ」とグレイシーは説明する。「バーナムの台詞に“皆と同じでいたら、誰も状況を良くすることができなかったはずだ”というのがある。これこそ、本作のハートだと私は思う」
脚本家と演出家が固まったあと、欠けていたのはあと一つの重要な構成要素だけだった。人を夢中にさせる力を持った歌だ。多くのソングライターにサンプルを依頼した結果、製作チームは当時新人だったベンジ・パセックとジャスティン・ポールの作品にほれ込んだ。それは、2人のブロードウェイ・ミュージカル『ディア・エヴァン・ハンソン』よりもずっと前、オスカー受賞作の『ラ・ラ・ランド』より何年も前の話だった。「ベンジとジャスティンは、ロックとポップ、現代のブロードウェイ・サウンドを組み合わせるというめったにない才能を見せた」とマークが言う。「本作のためにベンジとジャスティンが作った曲は、彼らの最高傑作だと思っている。映画の核心をつき、感情的な高ぶる気持ちと、沈んだ感情をとらえている。彼らが作った歌はいつでも人をどこかへ運んでいく。それぞれの曲が独立した物語を伝えているんだ」

 P.T.バーナムを演じるにあたり、ヒュー・ジャックマンが一番興味を持ったのはバーナムの発想であり、バーナムが思い描く世界の広大さだった。「一番気に入っているのは、危険を冒し、自分の夢を追いかけ、人それぞれの個性をほめたたえるという本作の核になっているものだ」とジャックマンは言う。「バーナムは、自分のショーに豊かな才能がありながら見過ごされた人々を出演させ、彼らが注目されるように大きなスポットライトを当てた。これこそ、私たちが伝えたかった物語だ」
さらにジャックマンは続ける。「バーナムは壁を取り壊した。現代の人々にとって彼が象徴しているものは、人は誰でも、階級も人種も背景も関係なく、本当の自分を見せ、自分が望む人生を選べるという考えだと思う。一生懸命働き、想像力を発揮すれば、人は素晴らしいことを達成できるという考えだ。バーナムは、人と違うところが自分を特別なものにしていると信じていた。この点に私は強く共感している。誰でも、特に若い人たちが共感できることだと思う。だからこそ私は、自分のままでいることが自信を与えクールなことだという本作のテーマにワクワクしている」
ジャックマンはバーナムの役に全力を注いだ。ノンストップでリハーサルをこなし、キャストとスタッフのリーダーをつとめ、あらゆる人を限界へと追い込んだ。マイケル・グレイシー監督は、ジャックマンが現場のレベルを上げたと言う。「ヒューが先頭に立ち、毎回150パーセントの力を発揮しているところを見たら、誰もが彼と同じことをしないではいられないはずだ」とグレイシーが言う。「だからテイクのたびにヒューがもたらすものを見ることで、全員が向上してしまうんだ」
リハーサルの初日、ジャックマンは参加できないことになっていた。小さな外科手術を受けたあと、一時的に医者から歌うことを禁じられていた為だ。が、彼の心は医者に従わなかった。「リハーサルを見ているのは拷問以外の何物でもなかった」とジャックマンは言う。「そして最後の曲になった時、『始まりの部分だけ歌おう』と思った。それで気づいたら、もう歌い始めていた。全曲を歌ってしまい、突然傷口が開いた。医者はいい顔をしなかったけれど、それほど本作の音楽は人に影響を与えるものなんだ!」
傷が癒えると、ジャックマンは遠慮なく没頭することができた。特に新しい動きやテクニックを探求するチャンスを喜んだ。「ダンスに関して今までやったことがないことを経験した。20年若い時の足だったらよかったのにと、時々、思ったよ!」

 ベンジ・パセックとジャスティン・ポールが楽曲を作るため『グレイテスト・ショーマン』に参加した時、すぐにこれまでやってきたものとは全く違うものになると気づいた。ポールは「19世紀の話を現代音楽で伝えるというアイデアは、最初は多少恐ろしく思えたが、同時に面白いチャンレジでもあった。これらの曲を書くことで、僕たちは今までチャレンジしてこなかったスタイルの組み合わせを探求することになった」と語る。
全行程を通して、マイケル・グレイシー監督は創造性における音楽チームのパートナーだった。「僕たちは、部屋に他の人がいる状態では書かないことが多い」とパセックが言う。「でも、マイケルはほとんどすべての曲で3人目の協力者だったし、コンセプトから最終作品までのプロセスに関わっていた。マイケルは、主に人物から刺激を受け、また、彼ら一人一人に独特の声を見つけるように僕たちを後押しした」
曲が出来上がり、配役が決定すると、パセックとポールは、ブロードウェイの舞台公演のようなリハーサルを始めた。ポールが説明する。「ブルックリンのリハーサルの場所には理想とするものすべてが揃っていた。一つの部屋ではダンス、別の部屋では歌のリハーサルが行われていた。ブロードウェイのショーと唯一違っていたのは、そこにレコーディング・スタジオがあって、トラックのレコーディングを始められることだった」
ミュージカル・ナンバー以外の音楽スコアは、アカデミー賞ノミネート経験を誇るジョン・デブニーが担当した。パセックとポールは、デブニーのスコアが自分たちの作品と自然に同期しているのを知って喜んだ。ポールが言う。「ジョンは、ミュージカルのパレット(音色の範囲)と独自の方法で歌と関連する美しいメロディを作り出した。彼は僕たちの作品を彼自身の才能で解釈し、ストーリーテリングにもう一つのすばらしい層を付け加えた」

 チャリティ・ハレット・バーナムはP.T.バーナムにとって力と愛を生み出す最大のよりどころだった。「若い時のバーナムは何も持っていなかったが、チャリティは彼が知る由もない特権階級の世界で暮らしていた」とマイケル・グレイシー監督が説明する。「素晴らしいのは、チャリティが多くを持っていたにもかかわらず、バーナムと一緒にいたいと思ったところだ。それは彼が金では買えないもの、つまり想像力を持っていたからなんだ。チャリティがP.T.の目で世界を見ると、そこは魔法がかかった場所になる」
チャリティ役のミシェル・ウィリアムズは、自らの役柄をこう説明する。「バーナムとチャリティは典型的な心の友なの。チャリティがバーナムに“あなたは偉大な人になる必要はないわ。ただ良い人になればいいの”と言う台詞があるわ。この言葉は2人の関係を表していると思う」
ミュージカルに出演することは、ウィリアムズにとってとびきり素晴らしい経験だった。「子供の時に大好きだった映画は、全部ミュージカルだったの」とウィリアムズは言う。「今は親としてミュージカルを家族と一緒に見ることを楽しんでいるわ。だから、そういう伝統を続けることにとてもワクワクした。毎日仕事場に出かけて、歌って踊り、他の人たちの歌やダンスを見るのはとても楽しかった。ヒューに勢いよく振り回されるのはとびきりおもしろい体験だったわ」
P.T.バーナムを取り巻くもうひとりの重要な女性は、世界的なスーパースターの一人、ジェニー・リンドだ。離れ業的なソプラノでヨーロッパでは人気を博していたもののアメリカでは無名だった彼女は、バーナムのプロモーションにより、レディ・ガガに匹敵するほどの有名人になった。
リンドを演じるスウェーデン生まれの新進気鋭の女優、レベッカ・ファーガソンは、リンドの人生や時代についてのリサーチを楽しんだ。「ジェニーがステージに上がった時には人々が本当に失神したことが分かったわ」とファーガソンが説明する。「きっとポップ・チャートのトップにいるようなものだったに違いないわ」

 『グレイテスト・ショーマン』の大半はP.T.バーナムの人生を元にしているが、2人の架空の人物によって新たな観点が持ち込まれた。ザック・エフロンが演じるフィリップ・カーライルは、上流階級の生活を捨て、バーナムの弟子になる。また、ゼンデイヤが演じるアン・ウィーラーは、タブーを破るピンク色の髪をした空中ブランコ乗りで、カーライルは彼女に夢中になる。
エフロンはカーライルという人物に興味を持った。彼は言う。「フィリップ・カーライルは成功しながらも自分を見失い、さらに何かを見つけようとしている。そんなときにバーナムと出会い、彼が他の人にどう思われようとまったく気にしないことに気づく。バーナムは社会が決めたルールに従わず、ショーでもその同じ気持ちを貫いている。フィリップはそこに解放感を覚え、彼と友情を育むことになるんだ」
一方アン・ウィーラーを演じたゼンデイヤは、アメリカの異人種の恋人たちが直面してきた障害を真っ向からとらえたラブ・ストーリーに魅力を感じた。「アンとフィリップが、それぞれの皮膚の色のせいで、自分たちが望む形で愛し合えないのは痛ましいことよ」とゼンデイヤは言う。「当時は危険だったから、彼らにできるのは視線を交わすことだけだった。アンは、ずっと人種差別を相手にしてきたから特につらい。でも、愛は自分でコントロールできるものではないの」
ゼンデイヤはトレーニングに励み、空中ブランコのプロたちと何ヶ月も協力して上半身と体幹を鍛え、恐怖をおさえる方法を学んだ。それが実を結んだのが、エフロンとデュエットする“Rewrite the Stars”のミュージカル・シーンだ。「これは典型的な振付ではなく、かなり突飛な曲芸をやる」とエフロンが説明する。「ゼンデイヤは空中ブランコがとても上手になっていたから、2人で空中のスタントをやり、ハーネスも使わずに部屋の中でブランコに乗った。運よく失敗せず、美しくユニークなシーンになった。あの場面は、ある意味、シルク・ドゥ・ソレイユとシェイクスピアの組み合わせのようだと思っているよ」